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東京地方裁判所 平成7年(ヨ)21165号 決定

債権者

大沢生コン有限会社

右代表者代表取締役

大澤喜一

右代理人弁護士

冨田武夫

債務者

全日本建設運輸連帯労働組合東京地域支部大沢生コン分会

右代表者分会長

金井晴夫

右代理人弁護士

五百蔵洋一

佐藤容子

主文

一  債権者が本命令の送達を受けた日から五日以内に、債務者に対し金五〇万円の担保を立てることを条件として、債務者は、所属組合員又は第三者をして左記行為を行わせてはならない。

1  債権者の取引先又は債権者が生コンクリートを出荷する工事現場の施工業者に対し、その事務所又は工事現場に押しかけ、多人数の威勢を示したり、腕章・ゼッケンを着用して威力を示したりするなどして、面会を要求し、又は債権者との取引の中止若しくは債権者の製造・販売に係る生コンクリートの使用の中止を要求すること

2  債権者が生コンクリートを出荷する工事現場又は施工業者の事務所の周辺で、街宣車などの拡声器を使用して施工業者が債権者の生コンクリートを使用することを非難する宣伝活動を行うこと

二  債権者のその余の申立てを却下する。

三  申立費用は、これを五分し、その一を債権者の負担とし、その余を債務者の負担とする。

理由

第一債権者の申立て

債務者は、所属組合員又は第三者をして左記行為を行わせてはならない。

1  債権者の取引先又は債権者が生コンクリートを出荷する工事現場の施工業者に対し、面会を要求し、又は債権者との取引を中止するよう要求し、若しくは債権者の製造・販売に係る生コンクリートを使用しないよう要求すること。

2  債権者が生コンクリートを出荷する工事現場又は施工業者の事務所の周辺で、拡声器を使用して施工業者が債権者の生コンクリートを使用することを非難し、又は右と同趣旨を記載したビラを配布するなどの宣伝活動を行うこと

第二当事者の主張

債権者の主張は債権者の仮処分命令申立書並びに平成七年一〇月一九日付け及び同年一一月一七日付け各準備書面に、債務者の主張は債務者の同年九月一四日付け、同年一一月一七日付け及び同月二八日付け各主張書面にそれぞれ記載されたとおりであるから、ここにこれらを引用する。

第三当裁判所の判断

一  争いのない事実、本件疎明資料(書証略)及び審尋の全趣旨によると、次の事実が一応認められる。

1  債権者(昭和四四年六月二〇日設立)は、主として生コンクリート(以下「生コン」という)の製造及び販売を業とする会社であり、肩書地に本社事務所及び工場を有している。債権者の平成七年八月現在の資本金は一〇〇〇万円、従業員数は一六名である。右従業員のうち、乗務員は一三名で、保有する生コンクリートミキサー車(以下「ミキサー車」という)は一五台である。

2  債務者は、全日本建設運輸連帯労働組合東京地域支部(以下、同支部と債務者を総称して「組合」という)の下部組織で、債権者従業員である乗務員によって平成二年四月結成された労働組合であり、分会長金井晴夫、副分会長松本憲一郎(なお、右両名は債権者により解雇されたが、その効力には争いがある)のほか、分会員として篠原政之、金丸稔の二名が存在する。

右支部は、東京地域の建設業等に従事する労働者によって平成元年に組織された労働組合であり、約五〇名の組合員を擁している。

3  債権者と組合との間では、これまでに次のような紛争が発生している。

(一) 東京都地方労働委員会平成二年(争)第四五号事件

右事件は、組合が、平成二年四月の債務者結成当時の債権者の対応を不服として、債権者を相手に、東京都地方労働委員会に対して、斡旋の申請をしたもので、平成二年八月六日、債権者、組合の双方が同委員会の斡旋案を受諾して終了した。

(二) 東京都地方労働委員会平成三年(不)第四五号事件

右事件は、債権者が分会員に対し、ミキサー車への乗務を拒否し、又は配車差別を行うなど不利益な取扱いをしている、分会員一名に対する定年退職後の再雇用の拒否、休職期間満了による退職扱い及び分会員一名に対する懲戒解雇が不当であるとして、組合が、同委員会に対し、不当労働行為救済の申立てを行った事案であり、現在審問は終結している。

(三) 東京都地方労働委員会平成四年(不)第七〇号事件

右事件は、債権者が平成四年二月、分会員一名に対して行った定年退職後の再雇用拒否を不当労働行為であるとして、同委員会に対し、不当労働行為救済の申立てを行った事案であり、右(二)事件と併合して審理され、現在審問は終結している。

4  債務者は、平成六年一〇月三一日以降、債権者の取引先である商社や、債権者が生コンを出荷する工事現場の施工業者又は工事発注者に対し、債権者がJIS規格で禁止されている残コンを混入した不良生コンを製造・販売しているとの宣伝を行い、債権者との取引を直ちに停止して、債権者の生コンの使用を中止せよと要求する活動等を繰り返した。そこで、債権者は、同年一二月一日、東京地方裁判所に対し、債務者を相手として違法な教宣活動の差止めを求める仮処分命令申立て(同年(ヨ)第二一二九一号事件)をしたところ、同裁判所は、平成七年三月三一日、業務妨害禁止の仮処分命令を発した。

5  右仮処分命令の発令後、債務者は、債権者が法定積載量を超える過積載出荷、すなわち工場で製造した生コンをミキサー車で工事現場に運搬する際に法定の積載量を上回る生コンを積載して運搬していると非難して、債権者の取引先や出荷先に対して債権者との取引を中止するよう要求する活動を繰り返すようになった。そして、債務者は、平成七年五月以降、商社、施工業者や杉並区役所等に対して右要求を繰り返し行った。そのため、債権者は、同月二六日からミキサー車に法定量の生コンを積載して出荷することに改めた。

6  しかし、債務者は、その後も、債権者が過積載をしているとして、債権者の取引先に押しかけ、債権者との取引を停止するよう要求したので、債権者は、同年六月三日と同月一六日に組合に対し、同月二四日に債務者に対し、今後業務妨害行為を繰り返す場合には然るべき措置をとる旨を警告した。

ところが、債務者は、同年七月二五日ころからは、更に活動を広げ、分会員、外部支援者を多数動員し、街宣車やマイクロバスに分乗するなどして、債権者の取引先である商社や生コンの出荷先である施工業者の施工現場(後記のとおり)や本社事務所に集団で押しかけ、多人数で面会を強要し、やむなく対応した相手方に対して、債権者が分会員を不当に解雇するなどと組合否認を続け、不当労働行為を行っていると非難し、このような法律違反行為を行っている債権者との取引を直ちに停止し、債権者の生コンの使用を中止するよう要求する行動をとるようになった。

(一) 平成七年七月二五日

株式会社フクダコーポレーション施工にかかる石井マンションの建設現場

(二) 同年七月二七日

(1) コーユーパレス株式会社施工にかかる田中邸の建設現場

(2) 不二建業株式会社施工にかかる石山ビルの建設現場

(3) 藤田建設株式会社施工にかかる和電工業ビルの建設現場

(4) 有限会社山富士工務店施工にかかる国田ハイツの建設現場

(三) 同年七月二八日

前記石井マンションの建設現場

(四) 同年八月三日

前記石井マンションの建設現場

そして、分会員らが工事現場等に押しかける際には、胸と背中に「大沢生コン社は不当解雇を撤回せよ!」、「不当解雇撤回」などと書いた大型のゼッケンを着用し、腕には「連帯」の赤腕章を着用している。その後、ゼッケンには、相手先に応じて、「藤木工務店は大沢生コンの組合つぶしに手を貸すな」、「田中土建工業は組合つぶしに手を貸すな」などとスローガンを書き込むようになった。また、債務者は、押しかけた施工現場や商社、施工業者の事務所の周辺で、街宣車の拡声器を使用して大音量で債権者の生コンを使用していることを非難し、同趣旨のビラを配布した。

そのため、債権者の取引先の商社や施工業者からは、債権者に対し、分会員らの行為により工事に支障が生じたことや近隣住民の受けた迷惑について厳重な抗議が寄せられた。

7  とりわけ、債務者は、債権者の主要な取引先である株式会社藤木工務店、田中土建工業株式会社及び江州建設株式会社に対しては、次のとおり執拗に宣伝活動を行った。

(一) 藤木工務店関係

債務者は、平成七年七月二五日、同年八月一日及び同月四日、藤木工務店が施工するコープ野村の工事現場に集団で押しかけ、「大沢生コンは組合を否認し、不当労働行為を続けている」、「こんな大沢生コンの生コン使用を直ちに中止せよ」などと発言して、債権者の生コンの使用中止を要求した。また、債務者は、同年八月、右工事現場周辺で、「なぜ法律違反の会社をかばうのですか」と藤木工務店に問いかけるビラを配布した。

しかし、藤木工務店が債務者の要求に応じなかったので、債務者は、同年八月二三日午前一一時三〇分ころ、債務者の上部団体である全日本建設運輸連帯労働組合の所属組合員ら約一〇名を動員して、藤木工務店の大阪本社(大阪市西区新町)に集団で押しかけ、社長を出せなどと騒ぎ立てて面会を強要した。これに対し、藤木工務店側が債権者の労使問題は藤木工務店には何の関係もないと面会を拒絶したが、組合員らは、執拗に面会を要求し、押し問答の末、やむなく応対した同工務店人事部所属の者に対し、債権者は組合に対し不当労働行為を行っている会社であり、法律違反を行っている会社の生コンをなぜ使うのか、債権者に発注している理由を聞きたい、回答は文書で寄こせ、回答の内容次第ではコープ野村の一現場にとどまらず、藤木工務店が手がけている他の現場にも押しかけることになるなどと申し向けて、約三〇分間にわたって債権者との取引を直ちに停止するよう迫った。そのため、藤木工務店は、このままではコープ野村の現場だけではなく他の現場にも波及することが懸念されるとして、債権者に対し、債権者の生コンの使用を打ち切る旨を通告した。

(二) 田中土建工業関係

債務者は、平成七年七月二一日以降、田中土建工業が施工している高野台大野ビルの工事現場に繰り返し押しかけ、債権者の生コンを使用するなと要求してきたが、同年一〇月以降は、ほとんど連日のように、右工事現場や田中土建工業の本社事務所(東京都新宿区本塩町)に集団で押しかけて面会を要求し、又は、同社の代表者の自宅まで押しかけて周辺で街宣活動を行い、労働組合を否認している債権者となぜ取引を続けるのか、直ちに取引を停止せよと要求した。すなわち、

(1) 平成七年七月二一日

債務者は、街宣車を動員して田中土建工業が施工する高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、田中土建工業はなぜ大沢生コンを使用するのか、大沢生コンの組合潰しに手を貸すななどと宣伝し、同趣旨を記載したビラを作業員等に配布した。

(2) 平成七年七月二五日

債務者は、二〇数名の人員を動員し、街宣車を伴って、高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、責任者との面会を強要し、債権者の生コン使用の中止を迫り、街宣車でも同趣旨の宣伝を繰り返し、作業員に右同様のビラを配布した。債務者は、債権者の生コンを使用する限り、本社にも現場にも押しかける旨申し向けた。

(3) 同年七月二八日

債務者は、分会員ら数名で、高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、責任者との面会を強要し、同月二五日と同様、現場周辺で街宣活動を繰り返した。

(4) 同年八月一日

債務者は、高野台大野ビルの現場に押しかけ、右同様に責任者との面会を強要し、債権者の生コン使用の中止を要求した。

(5) 同年八月三日

債務者は、分会員及び外部支援者一〇数名を街宣車とマイクロバスに分乗させて高野台大野ビル工事現場に押しかけ、責任者との面会を強要し、債権者の生コン使用の中止を要求した。

(6) 同年八月四日

債務者は、高野台大野ビルの工事責任者との面会を強要し、債権者の生コン使用の中止を要求した。

(7) 同年一〇月四日

債務者は、街宣車を伴い、田中土建工業の本社事務所に押しかけて責任者との面会を強要したが、断られたため、本社事務所前で、街宣車の拡声器を使用して田中土建工業は債権者の組合潰しに手を貸すな、債権者の生コンの使用を停止せよなどの宣伝活動を一時間以上にわたり行った。

(8) 同年一〇月五日

債務者は、街宣車を伴い、一七名の集団で高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、責任者に面会を強要し、債権者の生コン使用の中止を迫り、街宣車の拡声器により大音量で宣伝活動を行った。その際、分会員らは、街宣車を同工事現場の出入口前に駐車させたため、資材その他の搬入ができず、同日の工事が中止されることとなった。

(9) 同年一〇月六日

債務者は、街宣車を伴って高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、公開質問(なぜ法律違反をしている債権者の生コンを使用するのかという質問)になぜ答えないのかなどと大音量で宣伝活動を繰り返した。

(10) 同年一〇月七日

債務者は、街宣車を伴い、高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、前日同様、公開質問に答えよなどの宣伝活動を繰り返すとともに、現場工事作業を妨害した。

(11) 同年一〇月一一日

債務者は、街宣車を伴い、高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、公開質問に答えよなどの宣伝活動を繰り返した。

(12) 同年一〇月一一日ころ

債務者は、田中土建工業の代表者の自宅に街宣車で押しかけ、「なぜ法律違反の会社をかばうのですか」と田中土建工業に問いかけるビラを投与するなどの宣伝活動を繰り返した。

なお、田中土建工業は、同年一〇月一一日付けで、同社が必要とする物品を自由に買い受けるものであって、第三者から批判される理由はない旨を回答し、債権者の生コンの使用を継続する意思を表明した。

(13) 同年一〇月一三日

債務者は、分会員ら約一〇名を動員し、街宣車を伴って田中土建工業の本社事務所に押しかけ、責任者との面会を強要し、街宣車の拡声器を使用して債権者の生コン使用を継続する田中土建工業を非難した。

(14) 同年一〇月一六日

債務者は、田中土建工業の高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、責任者との面会を強要し、債権者の生コンを使用することは債権者の組合潰しに手を貸すことだなどの発言を繰り返し、債権者の生コンの使用中止を要求した。

(15) 同年一〇月一八日

債務者は、同日午前中、分会員や外部支援者を動員して高野台大野ビルの工事現場に押しかけ、右同様の行為を繰り返した。債務者は、同日午後、分会員、外部支援者ら約四〇名を動員して田中土建工業の本社事務所にも押しかけ、事務所前で責任者との面会を求め、押し問答を繰り返し、さらに、街宣車の拡声器で、同社が債権者の生コン使用を継続することを非難する宣伝活動を繰り返した。

このような一連の行為のため、田中土建工業は、やむなく平成七年一〇月二五日付け文書で、債権者に対し、債権者との取引を打ち切る旨を通告した。

(三) 江州建設関係

債務者は、平成七年七月二七日、分会員と外部支援者ら約一〇名を動員して街宣車一台、ライトバン一台に分乗させて、江州建設施工にかかるベルメゾン阿佐ヶ谷の工事現場に押しかけ、拡声器で「江州建設は組合否認を続ける大沢生コンを使用している」、「大沢生コンを使用する以上、江州建設は大沢生コンを指導する義務がある」などの宣伝活動を行った。さらに、分会員は、責任者との面会を要求し、これを拒否されると、工事現場内に押し入ろうとした。しかし、分会員らは、これを拒まれて現場ゲート前に佇立したため、約三〇分間にわたり材料等の搬入、搬出作業が不可能となった。

債務者は、同年八月一日、分会員ら約一〇名を動員して街宣車、ライトバンに分乗させて右現場に押しかけ、無断で現場作業区域内に立ち入るなどして責任者との面会を要求した。そして、分会員らは、責任者を取り囲み、ビラを受け取らせ、「労使紛争の解決に協力せよ」、「大沢生コンを使用する以上、ゼネコンにも責任がある」、「大沢生コンを使う限り何度でも来る」などと言って執拗に債権者の生コンの使用中止を要求した。この間、現場の作業は約三〇分にわたり中断した。

債務者は、同年一〇月二六日、江州建設の本社事務所(杉並区阿佐谷南)に押しかけ、公開質問状に回答せよ、債権者の生コンを使用するなと要求し、同月三一日午前一〇時過ぎには、街宣車を伴い、分会員、外部支援者計一〇名程度で、江州建設本社事務所に押しかけ、受付けで従業員が制止してもこれを振り切って事務所内に乱入し、責任者を出せなどと大声で騒ぎ立てた。営業部長がやむを得ず応対すると、債権者は労働組合を否認し、不当労働行為を続けている会社だ、こんな会社の生コンをいつまで使用するのか、直ちに使用を止めよと要求した。その際、分会員らは、江州建設の事務所前で街宣車を止め、同趣旨の宣伝を大音量で続け、その周辺で、「なぜ違法会社大沢生コンをかばうのか」と江州建設に問いかけるビラを配布した。

債権者は、同日午後、江州建設から電話で抗議を受けたので同社に謝罪したものの、その直後、江州建設の仲介商社である株式会社シモレンから連絡があり、債権者の生コンの使用を打ち切る旨を通告された。

しかし、債務者は、その後の同年一一月二日と同月六日にも江州建設本社事務所に押しかけ、公開質問状に回答せよ、債権者の生コン使用を停止することを確約せよと迫った。そして、前同様、事務所の外では街宣車の拡声器を使用して、江州建設は違法行為を行っている債権者の生コン使用を止めよ、違法行為に手を貸すななどと大音量で宣伝活動を続け、同月二日には、その周辺で前同様のビラを配布した。

江州建設は、当初、公開質問状には回答しない方針であったが、分会員らの言動に耐えかねて、同年一一月六日押しかけてきた分会員らに回答書を手渡した。しかし、分会員らは、右回答内容では不満であるとして納得せず、責任者に対して、「この回答は何だ」、「江州建設は債権者の違法行為を認めるのか」、「債権者の生コンを使用するということは違法行為に手を貸すことだ」などと騒ぎ立て、再度回答し直すよう迫った。そして、分会員らは、回答期限を同月九日と一方的に通告し、「また来る」との言葉を残して立ち去った。

二1  右事実によると、債務者は、腕章・ゼッケンを着用するなどした、外部支援者を含む多数の人員を動員し、街宣車を伴って取引先等の事務所や施工現場に押しかけ、多人数の威勢を示すなどして面会を強要し、債権者との取引の中止、債権者の生コンの使用中止を要求し、これに応じない相手には同様の行為を繰り返しているのであって、債務者のこのような一連の行為は、第三者である取引先や施工業者の自由な取引意思を抑圧して、債権者との取引を断念させ、債権者の営業を妨害するものであって、その方法、態様において、社会的相当性を欠く違法な組合活動であるといわざるを得ない。

そして、債務者が、施工業者の事務所や工事現場の周辺において、拡声器を使用して大音量で、施工業者が債権者の生コンを使用することを非難する行為は、近隣住民に迷惑を及ぼし、施工業者等に対して殊更に不安、動揺を生じさせるものであって、その方法、態様の点で、著しく相当性を欠き、右同様、違法なものというほかはない。

2  債務者は、債務者が債権者と取引関係にある建設会社、販売店等に過積載の中止を求めることは正当な組合活動であると主張している。

しかし、組合活動は、目的だけでなく、その手段、態様においても社会的に相当と認められる範囲内のものでなければならないところ、債務者の前記行為が手段・態様の面で社会的に許容される程度を超えていることは右に述べたとおりである(なお、債権者主張のように債務者が債権者の倒産を目的として右行為をしているということを疎明するに足りる資料はない)。

また、債務者は、債務者が監視を怠れば、債権者が違法な過積載を再開することは明白であり、現にこれを再開しているのであるから、債務者の行為は正当な活動であるとも主張している。

なるほど、(書証略)によると、債権者代表者は、平成七年八月三〇日に開かれた前記東京地方労働委員会平成三年(不)第四五号事件の第一九回審問期日において、債務者が今後業界慣行に従ってミキサー車の過積載を行うことがある旨を述べていることが認められ、これと(書証略)を併せ考慮すると、債権者がミキサー車の過積載を再開する可能性を否定することはできないし、実際に過積載車両を再び運行させている疑いも存する。しかし、そうであるからといって、前記のような態様の債務者の行為が許容される理由はないというべきである。

さらに、債務者は、右建設会社、販売店等に債権者の不当労働行為の是非を問うことも争議権の行使ないし組合活動として正当な行為であると主張しているが、争議権の行使、組合活動といえども、その方法、態様が前記のように相当性を欠く場合には許されないというべきである。

3  そして、前記一の事実及び(書証略)によると、債務者が債権者の生コン使用を中止させた藤不工務店、田中土建工業、江州建設は、いずれも債権者の主要な出荷先であり、分会員らは、現在も、債権者のミキサー車を追尾するなどして、債権者の出荷現場を追跡調査していることが一応認められる。これらの事実や前記一の債務者の活動及びその影響等に照らすと、債務者は、今後も更に債権者の他の取引先又は施工業者等に対し、前同様の違法な要求・宣伝活動を行う蓋然性が高く、もしそのようなことになれば、債権者は取引先等の信用を失い、また、取引を停止され、債権者の企業としての存亡にかかわる重大な事態を招くおそれがある。

したがって、債権者は、営業権に基づき、債務者の違法な右行為を差し止める権利を有し、主文掲記のとおりの仮処分を命ずる保全の必要性かあるというべきである。

しかしながら、債務者が前記のようなビラを配布したことについては、本件疎明資料を検討しても、その記載内容、表現方法や配布の方法、態様の点において、債権者のために差止めを認めるべきほどの事情は見当たらない。

三  よって、債権者の本件申立ては、主文第一項の限度で理由があるので、債権者が主文掲記のとおり担保を立てることを条件としてこれを認容し、その余は理由がないので却下することとする。

(裁判官 小佐田潔)

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